ドキドキワンウェイバルブ(前編)

【ほぼ日刊 絶品輪業通信 No.34】

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中の人

昨日、GT380 サンパチの腰下ご開帳ネタを紹介しました。(見ていない人はぜひ昨日のブログを見てください)
そこで予告したように、その時に発見された部品トラブルとそれに立ち向かった谷川工場長の話を書きましょう。

この頃のスズキ製2ストロークエンジンには、「CCI」という独自の分離給油システムが装備されていました。トップ写真はGT550のCCIを説明したイラストです。

スロットルと速度によってオイル ポンプを制御して、ポンプから伸びた樹脂パイプによってクランクシャフトとシリンダー表面をアクティブに潤滑するシステムです。昨日説明したように2ストロークは構造上、潤滑するためのエンジンオイルをクランクケースにためておけないので、いわゆる2ストオイルを燃料と混ぜてケース内に入れることで潤滑をしている。

ガソリンと混ぜてから取り入れているのと違い、先に潤滑オイルでアクティブに潤滑をしているのがミソ。混合ガスにする必要がないんですね。これによってクランクシャフトベアリングなど、耐久性も高まる。

クランクケースの上の後方にあるのがCCIのオイルポンプで、そこから伸びた赤いパイプが、オイルが通るいわば血管。

スズキはこの自社技術が素晴らしいことをアピールするためにキャラクターを作って宣伝をしていました。浜松のスズキ本社前にあるスズキ歴史館(無料、見学予約が必要)にはそのキャラクター「CCI坊や」が立っているんですよ。浜松に行く用事がありましたらぜひ訪れてください。いろんなバイクとクルマが見れます。二代目のアルト麻美スペシャルなんかもあります笑

さて本題です。このGT380にはCCI以外のスズキらしい2ストロークエンジン用システムが装備されてまして、それが「SRIS」(スズキ・リサイクル・インジェクション・システム)と言います。

CCIシステムによって潤滑したオイルは役目を終えて、クランクケース下にたまります。それがキャブから入ってきた混合気といっしょに燃焼室へいき、そこで萌え、じゃなく燃えます。2ストロークエンジンはCCIシステムじゃなくても、オイルも一緒に潤滑する。だから特有の青白い煙となって排気される。

2ストロークが国産市場用公道モデルから無くなって20年くらい経ちますかね。もう2ストロークエンジンに乗ったことがないってチェリーボーイもたくさんいます。昔は焼付きを嫌って、ちょっとオイルとの混合が濃い目になっている車両の後ろを走っていると、オイルが燃焼しきれずに出てくるから、ヘルメットやウェアにオイルがポツポツついて困ったもんです。だから2ストロークに乗っていると「前を走るな!」って言われましたっけ。

焼付きを嫌って、2ストオイルが濃い目の代表作。

CCIがオイル潤滑を制御するものなら、SRISは燃焼するオイルを制御するものなんです。スズキは2ストロークの煙があまり出ないようにしたかった。アイドリング状態から加速するときに出る煙を少なくしたかった。

SRISはクランクケース底にたまったオイルを添加する順序に、抜き出して次に燃焼する燃焼室へ導いて燃やす仕組み。余計に燃えるオイルを少なくする。

あ~前置きが長かった(お前がそうしてるんじゃないかいってツッコミは無しの方向で)。これは1番シリンダーのSRISバルブ。

ケース内からは出るが逆には入らない、ワンウェイのチェックバルブです。それを組み立てる前にチェックをしていた谷川工場長から「あ~」って声が。この1番シリンダーのチェックバルブにエアダスターガンで空気を送ると、外側から入れると勢いよく空気が出て、クランクケース側からやると最初にバスって出たかと思うとでなくなる。はい、ワンウェイバルブがぶっ壊れてます。

この初期型GT380は逆輸入されたもので、持ってきて1度もエンジンを始動させたことはありませんでした。1度もキックを蹴っていません。それでエンジンを開けてみると、ど〜ん!これです。コーヒーカップか?!ってくらいクランクケースにオイルが溜まっていました。

中が錆びるのがいやで、入れた───なんてあるわけないよなぁ、オイルタンクに2ストオイルを入れっぱなしで長期間放置され、CCIのオイルポンプを通ってケース内にオイルが流れていったんじゃないか。その可能性の方が高い。

水没してエンジンに水が入ったあとの再始動でエンジンを壊したことがある人が多いと思いますが(多くないか)、エンジンオイルがこれだけ入っていると、ピストンが下降するときにケース内の圧力が高まってコンロッドなどが壊れます。ウォーターハンマーじゃなく、オイルハンマー現象が起こるはずです。そう、皆様のご想像どおり、コンロッドが曲がってましたOrz
アメリカの大きなお友達が、これでキックをうりゃって蹴ったんだと思われ。だって絶品輪業では誰も蹴ってないんだも~ん。

サイドスタンド駐車をしていると1番シリンダーが下側になりますよね、そのまま40年とか経つと、地球の重力によって、ゴミとか澱とかが、あつまれーって感じで1番シリンダー下に集まったと思われ、SRISバルブのケース側吸い口に他より黒く、ゴミがこびりついたみたいになっていた。

この状態でも排気煙が増えるだけでエンジンが壊れたり調子が悪くなることはないんですけれど…… 工場長魂が納得しない。新品は出ない。足元をみるように、ネットではすごい価格で取り引きされている。でもこのGT380を買ってくれる未来のお客様に対し、「部品もでないし、直せないから我慢してちょんまげ」なんて言えません。

ネットに出ているバカ高い新品を買う予定で、とりあえず取り外そうとしたら、取れないんです。そもそも真鍮のチェックバルブ本体が少し曲がっていて、ソケットもメガネも工具が入らない。なんとかして、バルブの6角部にソケットを入れて回してみた。回るけれど出てこない。

こまった……(後編へ続く)

絶品輪業 中の人

人気のビンテージバイクだけでなくマニアなものまで強くこだわり、販売をしているビンテージバイクディーラー「絶品輪業」の中の人です。

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