■あれは新緑が芽吹く頃。すっかり日も暮れ、揺れるバンのヘッドライトの明かりに流れるように立ち並ぶログハウス。森をそのまま進むと目的地のガレージハウスらしき建物の明かりが目に入る。そこへ近づくにつれ見慣れた四角いテールではあったが、周りのロケーションからも何やらすごそうなものに出会えそうな直感が働く。気品の良い作業服姿のオーナーさんは自身の青春の1ページを回顧してか、しばらく乗れていなかった愛機の別れに大変愛おしそうに私たちに思い出話をしてくださった。
■出会いは40年近く過去にさかのぼる。当時としては特段珍しい車両でもなくヴィンテージ車の風格など微塵もない頃、新古車のようなコンディションで入手したという。毎日のように乗り回し、少しばかりのカスタムも楽しんでおられたようだ。当時楽しまれたカスタム部品や純正部品などはすべてきれいに保存されており新聞紙に包まれてBOXに整頓されていた。幾多の部品に目をやるが梱包に使用されている新聞紙の年号が平成2年前後のものばかり!?聞くとそのころから仕事が多忙につき徐々に乗る機会が少なくなったそうだ。今日届いたような新聞の質感を持つ梱包紙から鑑みても、このFXが良い環境で保管されていたからこそ今我々の手で市況に姿を現すことが出来たのであろう。
■30年近くガレージ内で保管された完全なる初期型ノンレスオリジナルコンディションのZ750FX-D2、当然だが純正部品だけで構成された車体は当時のままの状態で今日に至るわけだが、公道を安全に走れるようにするには30年近くの垢を落とすことは必然である。ノンレスオリジナルコンディションのまま現世にリリースするべく今回は整備を後回しにしてみたい。基本的な確認事項を網羅しておけば整備は後で何とでもなる。先ずは原動機、いわゆるエンジン。車体の通電状況はほぼOKだろう。バッテリーを繋いでセルを回しシリンダーコンプレッションを確認できた辺りでもう何も問題はない。足回りも油圧が残るブレーキ(固着はある)をはじめ錆がほとんどないフロントフォーク、純正の華奢なリヤサスの細いロッドなどしなやかに動くことがすごいと思う。国家認証工場を持つ私たち(絶品輪業)が責任を持って新たなオーナー様に完調なFXをお届けすることを約束する。
■整備を施せば否応なしに新品に替えざるを得ない整備箇所、今回は見た目を優先してタイヤとチェーンだけは新品とさせていただいた。むろん外したものは保管している。先ずは本質的な「当時モノ」いわゆる本物を見てほしいだけである。
■車検証には類別区分、型式指定の番号も枠内に残ることから、その素性の良さがうかがえる。外装はオリジナルペイントで当然載せ替えの無いマッチコンディション。日本語明記のタンクコーションラベルも連立して残っておりタンク内部の錆びも少ない。弊社にて鏡面加工を施しコーティングまで施工済みであることから大変美しいオリペンをご覧いただく事が出来る。
■少しばかりのカスタム箇所を開示しよう。@ヘッドライトリレーにCIBEのブースター、レンズがKOITOのH4バルブ仕様Aフロントブレーキバンジョーボルトにアルミアルマイト色品。過去に集合管に換装したことがあると言うが、それだけである。このFXにおける素性をすべて私は聴いてきた。車検証の類型番号が証明するように稀に見るミュージアムコンディションの一台ではないかと思う。レストアで新車と見まごう個体は数多くあるが、このような時空(とき)の悪戯とでも言おうか偶然にしてのみ存在する個体は探しても出てこない。そして誰も造り出すことが出来ない不変のコンディションが真のノンレストア&オリジナルコンディションなんじゃないかと私は想うのである。
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